「道は自分で切りひらく」(広岡勲)

まさに岩波ジュニア新書入門といえる一冊

「道は自分で切りひらく」(広岡勲)
 岩波ジュニア新書

子どもたちの読書を、
ラノベ小説だけで
終わらせたくないと考えています。
現代作家から明治の文豪までの
純文学としての小説、
そして詩や短歌、俳句、随筆、評論、
さまざまなジャンルに
広げさせたいのです。

私が積極的に紹介したいと
考えているのが岩波ジュニア新書です。
ジュニアと銘打っているものの、
その内容は大人が読んでも十分
勉強に値するものばかりです。
子どもたちをここに導きたいのです。
とは言っても、
読書経験の浅い中学校1年生であれば、
ジュニア新書でさえも
まだまだ敷居が高いと感じるでしょう。

そこで本書の登場です。
本書はまさに岩波ジュニア新書入門とも
言える一冊なのです。
大リーガーたちが
どのような努力を重ねて成功したのか、
わかりやすくかつ
ドラマチックに描かれています。
ちょうど小説と新書本の
中間のような内容ですので、
読書に慣れていない中学生でも
十分に読みこなせるでしょう。

1 「ホームランを捨てた」から始まった
松井秀喜が
2003年の大リーグ移籍直後の不振を
乗り越えるようす、
2004年の二年目の重圧を
はねのける過程、
そして2006年のあの左手首骨折という
大怪我とその後のカムバックまでを
取材しています。
どこまでもストイックな
松井選手の生き方が魅力的です。

2 挑戦するということ
日本選手初となる大リーグ挑戦の
扉を自らこじ開けた野茂、
日本人野手として
初めて実績を上げたイチロー、
二人の挑戦が記されています。
日本人大リーガーの
珍しくない昨今ですが、
彼ら二人がいたからこそ
後に続く選手が続々と登場したのが
よくわかります。

3 障害なんてへっちゃらだ
かつて大リーグで活躍した
隻腕投手・ジム・アボット。
差別や好奇な視線の中にあって、
実力だけがものを言う
大リーグで活躍できた
彼の折れることのない情熱と
力強い生き方が紹介されています。

4 偏見を乗り越えて
黒人初の大リーガーとなった
ジャッキー・ロビンソン選手の
奮闘が描かれています。
人種差別が根強く広がっていた
1950年代に、
「仕返しをしない」勇気を持って
差別に耐え抜き、静かに戦い続けた
ジャッキー選手の生き方は、
子どもたちが人種差別の問題を
考えるきっかけとなるはずです。

5 オリジナリティがいちばん
誰にも真似できない技術や
プレー・スタイルを持つ
リベラ投手、
シェフィールド選手、
フランコ選手、
ウェイクフィールド投手の4人を
取り上げています。
ナンバー1である以上に
オンリー1であることの
素晴らしさが伝わってきます。

6 われわれはあきらめない!
高校教師から大リーガーとなった
ジム・モリス投手の
ドラマが紹介されています。
彼のあきらめない姿勢は
もちろん素晴らしいのですが、
それ以上に高校教師を経験し、
教える立場に立ったことによって
「思考能力はすぐれ、それによって
技術も上がっていった」という一節が
印象的です。

7 がまんから生まれた指導論
松井がヤンキース在籍時の
監督・ジョー・トーリの
指導論についてです。
権力を持ったオーナーと
プライドの高い選手との
板挟みになることの多い
監督という立場で、
感情を表に出すことのない
リーダーシップには
学ぶところが多いと感じました。

短い章に区切りながら、
それぞれのテーマのもとに
大リーガーのストーリーを
紹介していきます。
これなら読書経験の浅い野球少年たちも
すんなり入ることができるはずです。

ここからスタートして、
岩波ジュニア新書に親しみ、
将来的には大人向けの新書本も
読みこなせようになれば理想的です。
さあ、子どもたちに
本書を薦めてみましょう。
えっ、女の子や
野球に興味関心がない子どもには
どうすればいいかって?…それは…。

(2020.12.5)

1848983によるPixabayからの画像

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